アレは梅雨明けの頃だった。
天気は晴れ。
描き上げたばかりの原稿を手にしていたオイラは、原稿を見せる日が晴れて良かった、と少し浮かれていた。
その数ヶ月前。某出版社にて副編集長とオイラ。ネーム打ち合わせ。
編集「このネームで行きましょう。私としてはまず内の賞に出したいと思っています」
太郎「(今更)賞ですか?」
編集「この内容で、妄想さんの画力ならトップ入選しますから、それでまず掲載、賞金を出しますからね、その分編集部も仕事を振ってくれるんですよ」
太郎「そういうことなら、その方針で御願いします」
入賞して掲載⇒読みきりOR短期連載
そういう流れで行きましょう、という話。出来レースに近い気もするが
編集「他にものすごい人が投稿してこないとも言えませんが、まず大丈夫ですよ」
少なくとも実力でもぎ取る形であるので、筋が通っており気分的にも描くモチベーションが上がった。
そして、締め切りを言い渡され、オイラは製作に取り掛かった。
締め切りまで時間があったので、描き掛けを先に仕上げ(9作目)その後、打ち合わせした漫画に着手。それでも期日内にはちゃんと出来上がった。(10作目)結構しんどかったけど。
梅雨が明ける。いよいよ10作目のお披露目である。作画は今まで一番努力した、そりゃ自分の中での話しだけど、それでも「やったったぞ!」という物を仕上げた確信はあった。
一枚を見て
編集「おお、すごいな。何だか面白そうですね」
そうでしょ、そうでしょ。
まぁ毎度のことですが1コマ目は気を使います。
そして読み終えて一言
編集「絵はすごいですね」
絵は?
編集「でもラストのヒネリがねぇ・・・」
いやいやいや、ネームをOK出しといて今更何言ってんの?
しかもラストもリテイクして、いい感じになりましたね、
って言ってましたよ、あなた。
編集「まぁ、賞は確実なんですが・・・」
太郎「それならラスト描き変えてきます」
編集「いや、それは・・・」
この歯切れの悪さ、普通のビジネスの商談なら契約違反であり、攻めに回るところであるが、そうもいかないのが今の立場。下手に下手にね。
しかし、ここである事実が発覚する。
太郎「仮に今のまま出したらどうなるんでしょうか」
編集「そうだなぁ、今日賞の審査があるから」
なるほど、今日審査があるからラスト描き変えは無理か、そう推挙していると
編集「次の賞に出すとして・・・」
太郎「はい!?」
思わず前のめりに。
太郎「今日のに入れてください」
編集「それはもうちょっと無理だよ」
太郎「じゃあ言われた締め切りなんだったんでしょうか」
編集「でも次の賞も確かもうすぐだよ(雑誌をめくる)」
いや、そんなはずねぇよ、と思いながらも黙って聞いていると
編集「ああ、大分先になっちゃうな」
Be coolだ、太郎。
太郎「そうですか・・・。それでそれに出したとして」
何か、のらりくらり話をはぐらかしていた編集だったが
編集「実はここのところの不況あおりで、発行部数が落ちてね。新人よりも固定ファンのいる既存の作家さんで手堅く回そうって経営方針が固まってね・・・」
はぁ・・・
編集「あ、いや。これはこれで賞は取れるんだけど、その後がどうなるか、なかなか難しい状況でね・・・」
雑誌は慈善事業じゃない。ビジネス、儲けてなんぼ。赤字になりそうなら止むを得ないこともある。それなら道理が通る。しかし雑誌の経営方針の転換を、ラストが良くないとか言って泣き寝入りさせようとしたその根性が気に食わない。
編集「何か描きたいこととかある?」
今、あなたの目の前にございますが?
と思ったが、仕方無しに
太郎「○○を舞台に、××な主人公で△△といったものを描きたいと思っています。まだストーリーとしては完結させていませんが、資料を読み込んでいる最中です」
半年ほど前から興味のあったテーマを少しずつ本を読んだりしてアイデアを固めていたものをとりあえず話した。
編集「うーん。そういうんじゃなくて、もっとこう、自分はこれが描きたいんだ、っていうのが無いんだよなぁ」
いやいやいや、たった今、たった今、描きたいです、って宣言したよね。
仕方ない、もう1つ、並行して調べていたテーマを上げる。今度はあらすじまで簡単に説明した。
編集「描きたいものがないと漫画は難しいよ」
ああ、もういいや。
編集「○○みたいな漫画が読みたいんだよね」
言っていることが意味不明になってきた。結局はあなたの好みか。しかも、「ぶらり途中下車」が好きでさ、とか言ってて、どんだけ渋い漫画求めてんだよ。その番組自体はのほほんとしてて良いとは思いますけどね。
編集「新人のアイデアが通ることはまず無いからね。だいたい編集がテーマ持ってきてまずは描かせるんだよ」
話の矛盾がここまでくると、この後どうしようかなと違うことへ思考がシフトしていくオイラ。2時間近くこんな感じだった。恐らく相手も相当バツが悪かったんだろうとも思った。この人だけが悪いわけでないこと位は分かってはいる。が、解せんのよ。
編集「で、どうします?」
太郎「(思考中)・・・」
編集「次まで時間あるし、他の出版社でも見てもらって、感触よければそこでもいいし、最終的にまたウチに持ってきてもらってもいいんで」
太郎「そうします」
今更、賞で賞金もらってヤッターなんて状況じゃない。
本屋に直行。
そこで、9作目。
9作目は自分オンリーで進めていた原稿で、とりあえず出来し前に話したときに(上述でやり取りしている)副編集長もあまり興味を示さなかったので、どこかに適当なところに投稿しておこう、10作目は掲載する前提だし。
そういう運命になった9作目。たまたま気分が落ち込んでいた時にオイラの部屋の床になぜか転がっていた漫画。気分転換にでもなればとページをめくると、何度か読んでいるのにも関わらず声を出して笑ってしまい、暗い気持ちが晴れたことがあった。
あの漫画、どこの雑誌に載ってんだろ。正直、買ったことの無いマイナー雑誌だった。どんな雑誌かも知らない。自分が笑った漫画が載っている、それだけの理由でそこへ投稿することにした。
投稿して約1ヶ月。10作目脱稿よりも前、梅雨が明けきらない頃。携帯が鳴った。
「○○編集部の○○と申します」
これが今も漫画を続けようと思える気力を支えることになる電話であったことは、その時、思いもしなかった。
つづく。



